いつまで母さん

依存症の家族と暮らす

どんぐりの発芽

 

1.明治神宮を散策した時のこと

 

まだ、飲酒をしていた頃。

毎日のように、さまざまなところに行き、ひたすら歩いた。

 

自分と向き合うというと格好がいいが、いま思うと、いわゆる逃避だった。

 

どうしても飲酒がやめられない。

どうにもならない家庭のこと。借金のこと。

全てから離れたかった。

 

今は、様がわりをした原宿駅。

 

ゆるりゆるりと歩いて明治神宮へ。

 

 

高い木立を見上げながら歩いた。

 

 

加藤清正公は、肥後初代藩主

熊本城、名古屋城、江戸城などの築城に関わった。

清正井

あずま屋

 

風を感じながら、木立や、葉、小さな石ころまで、ゆっくり見て歩いた。

三交替勤務と、アルコール漬けで、こんな時間は、今までなかった。

変な話だが、この散策の後、アルコールを飲む予定なのに、アルコールをやめなきゃと思って歩いていた。

静かな夕暮れだった。

 

春を待つアオキ。

野鳥もたくさんいたが、技術と集中力が無くて撮影できず(泣)

 

季節が変われば菖蒲の花が美しい場所。

 

2.どんぐりの発芽

歩き続けていると、足元に、たくさんのどんぐり。

よく見ると、根が出ている。

あ、芽も出てる!

 

子供の頃から見慣れたどんぐり。
発芽しているのを、この歳になって初めて見た。

感動の瞬間だった。

 

先のことなんてわからない。

環境が悪いなんて憂(うれ)いていられない。

がむしゃらに芽を出した小さなどんぐりの気概を感じた。

 

馴染み(なじみ)のどんぐりが、こんなにガンバってる。

アルコールで現実から逃げ回っている自分が恥ずかしかった。

ひと気もなく、ちょっぴり泣いた。

 

同じ日、明治神宮の境内では数組の神前結婚式が行われていた。

美しい花嫁さんと花婿さんが穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

ギャンブル依存症の夫。

離れ離れの心。

現金を手にすると言動まで変わってしまう夫。

 

だけど、夫も、きっと幸せになりたい思いは同じだろう。

幸せになろう・・・子どもたちのためにも・・・

その時は、自信もなく、小さく、本当に小さく、そう思った。

 

3.あれから数年後

 

断酒をして2年以上になる。

 

今でも買い物をしながら、気が付くと酒類の陳列棚の前で、ボーッと立ち尽くしていることがある。

ほとんど無意識に。長年の習慣かと思う。

 

そんな時、あの日のどんぐりを思い出す。

 

逆境に耐え、大きな木になれるかどうかも分からない。

大自然の中でどんな試練が待っているかもわからない。

それでも、がむしゃらに芽を出したどんぐり。

 

「いつまで母さん」でいなきゃいけないの?

女は、母親になったその瞬間から、「いつまで母さん」

という重荷を背負って生きていくの?

 

という問いに、明治神宮のどんぐりが、

 

その問いに答えはない。

『母さん』として、腹をくくって生きていく覚悟。

足りないのは、ただ『母さん』としての覚悟だ。

 

そう言っている気がした。

 

 

ところで、

明治神宮のあの日のどんぐりは、どうなっただろう。

 

整備されてしまったのか?

また、近いうち行ってみようと思う。